全固体電池とは? トヨタなどEV化で注目を集める日本メーカーが注目される理由を解説
今注目の全固体電池とは?
これまで広く普及してきた電池の電解質は液体でしたが、全固体電池は電解質を固体にし、すべてを固体で構成しています。
固体の電解質を用いた電池は電解液を用いた電池と比べると、液漏れや発火の危険性が少ないためより安全です。
また、安全性もさることながら、“耐久性”や“性能”の面でも従来の電池と比較すると、全固体電池は優れており、“次世代バッテリー”として注目されています。
全固体電池の仕組みとは?
全固体電池の仕組みや構造は基本的にリチウムイオン電池と同じです。
リチウムイオンが電解質を移動することで電気が流れる仕組みになっています。
多くの点で優れていると感じる全固体電池ですが、固体の電解質中では、リチウムイオンが動きにくくなるという課題も抱えています。
そのため、電解液と同程度の伝導性を持つ材料の開発が日々進められており、イオン伝導率の高い硫化物系の材料は有力候補として挙げられています。
特に、日本のメーカーは素材などの最先端研究において先行しているため、EV(電気自動車)用のバッテリーのシェア争いに関してリードを許している中韓勢に対し、どこまで巻き返しできるかが注目されています。
全固体電池が注目されている理由とは?
これまで、全固体電池について記述致しましたが、
注目されている理由はどのようなものがあるのでしょうか。
以下に全固体電池がリチウムイオン電池の代替品として注力されている理由を簡単にまとめました。
■理由1:安全性と耐久性の高さ
全固体電池は、電解質を液体から固体に置き換えることで液漏れや発火リスクが減り、耐熱性が向上します。
リチウムイオン電池が高温になると発火する危険性があることに対し、全固体電池は温度変化に強く、安全に作動する温度の範囲が広くなり、温度変化にも強く、“耐久性”が高まるという利点があります。
また、イオン伝導率の高さから実用化の本命とされている硫化物系全固体電池においては、もし交通事故で損傷したとしても、硫化水素が発生しにくい安全な材料開発が進められています。
これらの理由から、過酷な状況でも使用できる全固体電池は発火リスクを低減でき、“人の命を守る”車(EV車)の動力として注目されています。
実際に、EVの火災発生割合はガソリンエンジンよりも低いものの、EV車の発火原因はほとんどがバッテリーです。
この発火原因を解決するためにも、厳しい環境下においても使用可能な全固体電池は、これからのEV車競争に勝ち抜くためには欠かせないのです。
■理由2:走行距離の伸長、急速充電、バッテリーの長寿命化が可能
リチウムイオン電池は高温になると発火する恐れがあると前述しましたが、発火リスクを軽減するため、温度管理という面で冷却装置を装備します。
一方で、全固体電池は耐熱性・耐久性が高いため、冷却装置が不要です。
そのため、より多くの空間を電池の搭載に使用でき、より多くの電池を搭載できるため走行距離の伸長が可能です。
また、リチウムイオン電池を高速充電する際には、大きな電流が流れるため、バッテリーが過熱状態になり充電するたびに少しずつ劣化します。
しかし、全固体電池は高温に強いため、急速充電のために大きな電流が流れたとしても“耐久性”の高さからバッテリーは劣化しません。
更に、リチウムイオン電池では正極と負極の表面で“電解液の分解反応”が起こり、
性能の低下につながります。また、電極活物質の溶解が引き起こす劣化により寿命が短くなってしまいますが、全固体電池(固体電解質)ではこれらの反応が継続しない、または起こらないため、長寿命化を実現できます。
このことから、EVにおいて大切な“走行距離の伸長”や“急速充電”、“バッテリーの長寿命化”が実現可能なのです。
全固体電池はEV競争の切り札
上記でお伝えしたように、全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池より安全性・耐久性などにおいて優れた特性を有しているため、特にEV用バッテリーとしての期待が高まっています。
そのため、リチウムイオン電池の代替として有力視されており、各国のバッテリーや電子部品、自動車メーカーによる熾烈な開発争いが繰り広げられています。
また、日本をはじめ、世界中の自動車メーカーで、全固体電池の実用化に向けた開発競争が行われています。
全固体電池を制したものがEV競争を制すといっても過言ではないでしょう。
EV用途のバッテリー市場におけるシェアは?
全固体電池の注目度は高まってはいるものの、現在のEV用バッテリーの主流はリチウムイオン電池のままです。
特に現状は中韓勢メーカーがシェア争いにおいては優位です。
2022年1~9月の世界のEV向けバッテリー市場でのシェアは下記のような数字と順位になっています。
1.【中国】寧徳時代新能源科技(CATL: Contemporary Amperex Technology):約35%
2.【韓国】LG Energy Solution:約14%
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4.【日本】パナソニック:約8%
(韓国SNEリサーチ調べ)
日本メーカーは4位に入り健闘していますが、パナソニック1社のみであり、上位は中韓勢が占めている状況です。
リチウムイオン電池の開発競争においては、日本の電池メーカーはかつて世界をリードしていました。しかし、2000年代に遅れて参入してきた中韓勢メーカーの積極的な投資と開発スピードに圧倒され、現在では立場が一変しています。
日本の電池メーカーが今後も存在感を示すためには、既存の電池への積極投資だけでなく、次世代電池の実用化を見据えた戦略を持ち、人材を育成していかなければなりません。
パナソニックなどが全固体電池の研究開発で新たな人材を募集しているように、次世代電池である全固体電池に関わる求人も増加傾向にあります。
日本のシェアを巻き返すカギは全固体電池の開発
日本の電池メーカーが全固体電池の開発において、世界をリードできなければ、日本の電池産業全体の大きな痛手になることは明白です。
日本がかつてリチウムイオン電池の開発において先行できた理由として、共同開発できる様々な素材・部材メーカーの存在があります。
現在も上記のような産業構造の優位性は維持をしており、全固体電池の開発競争においても素材・部材メーカーは大きな役割を担っています。
“開発効率”が巻き返しのキーポイント
2018年度には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)プロジェクトがスタートしました。
同プロジェクトの成果で生まれた電池を標準モデルとし、新しい電池材料を組み込んでいくことで開発期間の短縮を実現しようとしています。
グローバルな開発競争に勝ち抜くためには、標準モデルの電池を用いた“各メーカーでの開発効率化”が巻き返しの不可欠な要素となります。
更に、2021年4月には、様々な電池メーカー、部材メーカー、自動車メーカー、総合商社や銀行が参加したBASC(電池サプライチェーン協議会)が発足。
これは、グローバル競争力の強化が目的となった政策提言などで、電池のサプライチェーン全体での発展が狙いです。
日本政府においても“グリーン成長戦略(経済と環境の好順化を作るための産業政策)”を進めるなどし、政府と産業界が一体となり取り組むことで日本のシェアを巻き返す動きが進んでいます。
国内で注目されている全固体電池を扱うメーカー5選
1. 出光興産
出光興産は、硫化物系固体電解質の大型量産実証を2024年に開始すると発表しました。290億円を投資し、千葉事業所に自動車約1万台分相当となる100トン規模の製造ラインを立ち上げ、自動車メーカーや電池メーカーに供給する計画です。
また、ベルギーのUmicoreと共同で、正極材料と固体電解質を融合した高性能材料を開発するとも発表しています。
出光興産は硫化リチウムを原料とする硫化物固体電解質の特許を多数保有しており、Umicoreはリチウムイオン電池に必要な正極材料におけるリーディングカンパニーです。
両社は共同で、全固体電池の実用化と普及への貢献を目指しています。
さらに、三井金属も硫化物系固体電解質の量産試験設備を導入するなど、同材料の開発で日本がリードしている状況です。
2. マクセル
マクセルは2023年に、IoT機器やウェアラブル機器向けの硫化物系小型全固体電池の本格量産を計画。
同全固体電池は、-50~+125℃の広い作動温度範囲の高い耐候性が大きな特徴であり、条件によってはほとんど劣化することがないため、半永久的に使用できるという可能性を秘めています。
硫化物系小型全固体電池の量産化は世界初とされています。
これは、1961年創業の同社が乾電池の製造で培ってきた技術が可能にしたといわれており、これまでに電池交換のため数年ごとに手術が必要だったペースメーカーなど埋め込み型の医療機器や、電池交換が困難な深海や高山、宇宙空間などの極限環境でのセンシング技術などへの貢献が期待されています。
3. 村田製作所
村田製作所は、携帯型電子機器向けに、蓄積可能な電力を最大限まで高める全固体電池の開発に挑戦。
長年培ってきた積層セラミックコンデンサー(MLCC)の技術を生かし、独自の材料、プロセス、装置技術を用いることで、業界最高水準の性能を持つ全固体電池の開発に成功しています。
村田製作所が開発した全固体電池は、携帯型電子機器を作動させるために必要な電力を安定供給できるエネルギー密度を備えており、“安全性”“耐熱性”“不燃性”に優れた独自の酸化物型のセラミック材料を採用しています。
また、4×5×9mmの小型の電池の試作品で最大容量数10mAhの出力が可能なことを確認しており、ワイヤレスイヤホンなどの電源に利用できる性能を備えています。
4.TDK
TDKは世界に先駆けて、SMD(表面実装部品)タイプのオールセラミック全固体電池「CeraCharge(セラチャージ)」を製品化。
同社の高度な積層技術を基盤に開発し、“小型で安全”、“長寿命”、“大量生産しやすい”といった特長があります。
これは、様々なIoT製品への導入が検討されており、2020年12月には、デンマークのCookPerfectが開発した新製品の調理用温度計のバッテリーに採用されています。
5.パナソニックエナジー
乾電池、産業用電池、車載用電池などのBtoB事業を手掛けるパナソニックエナジーもまた、全固体電池の開発中です。そのため、研究開発を行える人材の募集をしています。
同社では、2025年以降に車載用途で試験的な評価を開始する予定となっているようです。
EV用バッテリーを巡る日系完成車メーカーの動向とは?
電池メーカーからの調達だけでなく、自動車メーカーが自ら大規模投資し、安定的な電池確保を目指す動きもあります。
下記に各大手自動車メーカーの近年の動向をまとめています。
■ホンダ
ホンダはEV用バッテリーを、中韓のメーカーから調達することを明らかにしています。日本市場向けにはNEC、日産の合弁会社としてのルーツを持ち、日系カラーが強いEnvision AESCから、北米市場向けにはLG Energy Solutionから、中国市場向けにはCATLから調達する計画です。ちなみに全固体電池については、20年代後半の実用化を目指しており、実用化できれば切り替えを進めるとしています。
また、LG Energy Solutionと共同で約6100億円を投じて米国に工場を建設し、25年の量産開始を計画しています。
また、全固体電池の研究を独自に進め、2020年代後半の実用化を目指しています。
■トヨタ自動車
トヨタ自動車は2021年9月7日に開催した「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」で、全固体電池の開発状況について説明しています。
2020年6月の段階で全固体電池を搭載したEVによる試験走行を開始。走行データを取得できる段階に到達したことを発表しました。また、走行データを基に改良を加え、同年8月には同EVでナンバーを取得し、試験走行を実施したことも報告しています。
将来の電池コストに関しては、新型EV「TOYOTA bZ4X」と比べ、2020年代の後半に50%低減することを目標としています。また、電池の供給体制は180~200GWh以上を目指すことを明らかにしました。日米で最大7300億円を投資し、2024~26年の生産開始を予定しています。
国内の電池メーカー、部材メーカーとも連携し、早期の量産化実現に向けて開発を加速させています。パナソニックとの合弁会社“プライム プラネット エナジー&ソリューションズ”とは、将来の量産化に向けて設備投資を進めています。また、2023年10月にはEV車向け全固体電池の量産化を目的として出光興産とも協業を発表。EV向けの全固体電池を2027年から2028年に実用化する考えです。出光興産と調達や製造などを担う数十名規模の検討チームを立ち上げ、それぞれが強みとしている材料技術やEV開発のノウハウを組み合わせ、量産化と事業化を急ぐ考えを明らかにしています。
■日産自動車
日産自動車は、自社開発の全固体電池の量産化に向けたパイロットラインを2024年度までに横浜工場内に設置し、2028年度までに全固体電池を搭載したEVの市場投入を目指し動いています。2022年4月8日には、全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備を初めて公開し、同設備を横須賀市の総合研究所内に設置。全固体電池の技術開発に活用しています。
また、同設備では、パイロットラインで量産試作をする仕様の材料、設計、製造プロセスの検討を実施。日産自動車は全固体電池のコストレベルについて、2028年度に1kWhあたり75ドル、その後はEVやガソリン車と同等の65ドルまで低減可能なポテンシャルがあると評価しています。
■スズキ
スズキも約1500億円を投資してインドに工場を建設し、2026年の稼働を予定しています。
全固体電池は開発段階だからこそ人材採用の需要が高い
次世代の電池として期待される全固体電池の特徴や利便性、実用化までの難しさをご説明してきました。
電子部品メーカーにおいては既に、IoT機器やウェアラブル機器向けのキャパシティが小さい小型の全固体電池の量産はスタートしていますが、スマホやノートPC用のバッテリーなどのより大きなキャパシティが求められる全固体電池においてはまだまだ研究段階で実用化への目途も立っていない状況です。
しかし、この困難な状況ほど世界でも高い技術力を誇る日本のメーカーにとってはチャンスです。
現在主流とされているリチウムイオン電池のシェア争いにおいては中韓勢に首位を取られてしまっていますが、全固体電池で次世代電池として電池市場を席捲し、巻き返しを図れるかに注目が集まっています。
このような状況のため、中途採用市場においても電池性能の向上に向けた素材開発や全固体電池そのものの開発・量産を目指した新規工法開発の採用ニーズは高まっています。
素材メーカーにおいては、固体電解質や電極複合材料の設計、合成技術などを有する同業他社の方に加え、電池メーカーや完成品メーカー出身の電池評価が得意な方も高い需要があります。
これは、セル内部での反応や安全性を正しく評価する技術を自社内でも構築する必要があるためです。
こうした状況の中、中途採用市場では、現時点で電池性能アップに向けた素材開発、全固体電池そのものの開発、量産を見据えた新規工法開発の採用ニーズが多数あります。
また、電池・完成品メーカーサイドでは、材料を使いこなす技術に優れた材料技術者に高い需要があります。
電池業界において“乳化”、“分散”、“塗布”、“積層”、“印刷”のような技術の需要は非常に高く、異業界からもこれらの技術を保有する技術者を積極的に採用しています。
電池開発というのは驚くほど様々な技術が活用され構成されているため、皆さんの保有する意外なスキルが実は電池開発において高く評価されるということも珍しくありません。
そのため、世界初の実績を生み出すことの一端を担える可能性も高いです。
ご自身のスキルがどう転用できるか確認したい方はぜひ弊社アドバイザーにキャリアについての相談やお悩み事を相談してみてください。
化学専任アドバイザーが面談にて多角的視点からポータブルスキルを分解し、満足頂ける転職を実現致します。
この記事の寄稿者
大学では有機金属化学を専攻し、遷移金属錯体や有機化合物を用いた新規有機金属錯体の合成および反応性について研究。修士課程修了後は電子部品メーカーに就職し、主に防水スマートフォン向け電子部品の開発に従事しておりました。新製品の試作評価に加え量産化まで経験し、製品開発業務を一通り経験しました。その後、エンジニア経験を活かしてキャリアに貢献したいと考え人事職へ転職。主に新卒採用業務に携わってきました。現職では、自分自身も転職活動で悩んだ経験から、同様に悩むエンジニアのキャリアを支援したくキャリアアドバイザーを務めております。転職においては、テクニカルスキル、ポータブルスキル、パーソナリティの3つの観点でのマッチングが重要ですが、化学系職種では特にテクニカルスキルのマッチ度が求められます。バックグラウンドの化学知識を活かした技術理解、技術の応用先のご提案においては社内一の知識がございます。
- 畑中鴻希