組み込みシステムを使用する主な業界|今後の将来性や採用動向について解説
組み込みシステムは身近な家電製品から大型の航空機に到るまで、さまざまな電子機器に搭載されています。
本記事では、組み込みエンジニアでの就職・転職を検討している方に向けて、組み込みシステムの主な用途や業界動向を紹介します。
組み込みエンジニアとして将来的な活躍を目指し、キャリアプランを具現化したい方に参考になる記事です。
組み込みシステムを使用する主な業界
組み込みシステムとは、家電製品や自動車などの電子機器に搭載され、動作や機能を制御するものです。
組み込みシステムを使用する業界としては、
・電機・電子機器業界
・自動車業界
・産業機器業界
・医療機器業界
・社会インフラ関連業界
・金融・ファイナンシャル業界
・航空・宇宙・防衛産業
などが挙げられます。ここでは、各業界での具体的な用途について解説します。
電機・電子機器業界
組み込みシステムを多用している業界のひとつが電機・電子機器業界です。
テレビや電子レンジなどの家電製品にはもちろんのこと、プリンターやスキャナーといった電子機器のほとんどに組み込みシステムが搭載されています。
たとえば洗濯機の場合は、組み込みシステムを搭載しているからこそ「ボタンを押すと水が出る」「ドラムが回転して衣類を洗浄する」といった動作が期待通り正常に機能し、設計された通りにユーザーが使用できるようになります。
近年では家電製品をはじめとした電子機器のIoT(Internet of Things:さまざまなモノがインターネットに接続され、モノ同士がデータの収集や交換を行って、相互に制御し合う仕組みのこと)化が進み、組み込みシステムに精通している組み込みエンジニアは特に重宝されています。
IoT化された電子機器の例としては、スマートフォンで遠隔操作できるエアコンやデジタルカメラ、インターネットに接続できるスピーカーなどが挙げられます。
自動車業界
自動車業界でも、自動車のさまざまな機能を制御する目的で、組み込みシステムを多用しています。
自動車業界で「車載系組み込みシステム」というときには、自動車に搭載された組み込み型のコンピュータ「ECU(Electronic Control Unit)」を指していることが一般的です。
カーナビやETCなどもECUによって制御されています。自動車にECUが搭載されはじめた1980年代には1台につき2~3個程度でしたが、現在は1台に100個以上のECUが載っていることもめずらしくありません。
ECUは自動車の機能性や燃費などを左右する重要なユニットであり、従来は他社との差別化を図る目的もあって、各メーカーが独自で開発していました。
しかし2000年代に入ってからは、開発コストを削減し、生産性を向上させるために、ECUを共通化・標準化する動きが出てきました。
たとえば一部の欧州自動車メーカーでは、車載ソフトウェア(ECU)の標準化を推進する団体「AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture:オートザー)」を立ち上げ、現在では欧州メーカー製新車のほとんどにAUTOSAR仕様のECUが搭載されています。日本国内においてもAUTOSAR採用の動きが活発化しています。
産業機器業界
産業機器業界では、工作機や半導体製造装置、精密機器の検査装置(超音波検査装置など)などに組み込みシステムが搭載され、各機器の動作を制御しています。
組み込みシステムを搭載することによって、機器の動作の一部もしくはすべてを自動化し、生産性の向上を図るためです。同時にこれらの装置ではIoT化も進んでおり、動作中のデータを収集・分析し、故障の予兆検知やパフォーマンスの最適化などに応用されています。
これらの装置の組み込みシステムの多くでは、OSとして高機能オープンプラットフォームの組み込みLinuxが採用されています。
無料で利用できるほか、異なるハードウェアへの移植がしやすい、ミドルウェアが豊富である、セキュリティが堅牢であるなど、数多くのメリットがあるためです。
医療機器業界
医療現場で使用されるさまざまな機器=医療機器にも組み込みシステムは搭載されています。
X線検査装置、超音波診断装置、内視鏡装置といった高度な医療機器を制御するためです。
これらの装置は人間の生命に関わる重要なものであり、組み込みエンジニアの責任は重大です。
組み込みシステムは、医療機器のIoTといえる「IoMT(Internet of Medical Things)」を実現するためにも欠かせません。
IoMTを利用することにより、患者のデータをリアルタイムでモニタリングする一方、収集・分析したデータを患者の治療に役立てることができます。
インターネットに接続されているという前提があるため、遠隔医療・遠隔治療に応用することも可能です。
たとえば、遠隔地にいる専門分野の医師が現場にいる医師と連携し、医療機器から得られた画像データや検査データをリアルタイムで共有しつつ、適切な医療サービスを提供する、といったことができるようになります。
社会インフラ関連業界
組み込みシステムは、私たちの安全かつ利便性の高い生活を支えている五大インフラ──電気・水道・ガス・通信・交通──の各設備にも搭載されています。
たとえば交通で見てみると、鉄道の車両や船舶の動作を制御しているのは組み込みシステムです。
高速道路のETCシステムや航空機の航空管制システムなども組み込みシステムがなければ正常に機能しません。
多くの人が日常的に利用している自動改札がどのような仕組みで動いているのかを概説します。
自動改札では、改札機内に組み込まれた運賃計算プログラムが、乗客のICカードがタッチまたは挿入された瞬時に料金を計算し、適切な金額をICカードから差し引きます。
同時に自動改札の組み込みプログラムと開閉機能とを連動させることによって、たとえば有効期限切れのICカードや無効な切符を使用した乗客の通過を拒否できるようになっています。
金融・ファイナンシャル業界
金融・ファイナンシャル業界でも、現金の引き出し・振り込みなどに利用されるATM(Automatic Teller Machine:現金自動預け払い機)や、飲食店・小売店などに設置された自動釣り銭機など、さまざまな機器に組み込みシステムが搭載されています。
さらに近年では、上記のような組み込み機器に加えて、新しい金融領域のサービスである「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」にも搭載されています。
組込型金融や埋込型金融とも呼ばれ、ECサイトなどの非金融事業者が、金融事業者の提供するAPIを利用して、自社サービス(たとえばECサイト)内に金融サービスを組み込むことを指します。
具体的には、主に電子決済を実現するための手段として活用されており、たとえばタクシーアプリにクレジットカード情報を事前登録することによって、降車時に財布を出すことなく電子決済を行えるのは、エンベデッド・ファイナンス=組み込みシステムのおかげです。
そのほかには小売店などに設置されたPOSレジに搭載されている電子決済端末にもエンベデッド・ファイナンス領域の技術が応用されているものがあります。
航空・宇宙・防衛産業
航空・宇宙・防衛産業は、前出の自動車業界と同様、あるいはそれ以上のレベルで安全性に対する基準が高く、最先端の技術が投入された組み込みシステムを搭載しています。
航空・宇宙・防衛産業でも自動車業界のAUTOSAR仕様ECUと似た動きがあります。従来は専業メーカー各社が独自の組み込みシステムを作っていましたが、ハードウェアとOSを共通化し、キャビネット上で複数のモジュールを組み合わせることによってアビオニクス(航空機搭載用電子機器)機能を実現する「IMA(Integrated Modular Avionics:統合化アビオニクス)」が、本業界でのAUTOSAR仕様ECUに該当します。
IMA(の設計思想)を採用することによって、従来の手法で問題視されることが多かったアビオニクスの重量や消費電力、コストなどの課題を解決できるほか、安全認証の取得にかかる手間なども低減できるようになります。
IMAを搭載した民間航空機としては、ボーイング777、エアバスA380、ボーイング787などがすでに就航しています。
ちなみに日本ではスマートウォッチメーカーとして有名な米・ガーミン社は、実は世界で十指に入るIMAのトップメーカーのひとつです。
組み込みシステム業界を支えるエンジニアの将来性
組み込みシステムの開発を担当するエンジニアは、組み込みエンジニアと呼ばれます。
厚生労働省が運用する職業情報提供サイト(日本版O-NET)では、「システムエンジニア(組込み、IoT)」と表記され、システムエンジニアに区分されています。
システムエンジニアにはサーバーエンジニア、ネットワークエンジニアなど、さまざまな種類がありますが、組み込みシステムを専門的に開発する組み込みエンジニアは、システムエンジニアのなかでも、立ち位置がやや特殊です。
組み込みエンジニアの仕事内容について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:
組み込みエンジニアとは? 仕事内容や年収、取得したい資格を紹介
組み込みエンジニアの将来性は明るいのか否かについては、
・デジタル・IoTの普及によって需要が増えている
・AIが普及し需要は増え続けると想定される
といった理由から「明るい」と考えられています。
デジタル・IoTの普及によって需要が増えている
デジタル家電に代表されるように身近な製品もデジタル化・IoT化され、社会に広く普及しています。
今後、より多くの製品がデジタル化・IoT化されることが予想され、組み込みエンジニアに対する需要も引き続き高く推移するものと見込まれています。
たとえば「金融・ファイナンシャル業界」の項で見たように、キャッシュレス決済の普及によって、エンベデッド・ファイナンスに対応できる組み込みエンジニアへの需要は高まるはずです。
特に高度な組み込みシステムに対応できるエンジニアであれば、さまざまな業界で活躍することが可能です。
AIが普及し需要は増え続けると想定される
過去には家電や医療機器などに組み込みシステムを搭載する際、OSを搭載する手法が主流でした。
今後はOSに代わってAIを組み込む手法が普及する可能性もあり、そうなれば、対応できる組み込みエンジニアの需要は高まるはずです。
近い将来、AIの普及がどの程度進むのかがカギになりますが、たとえばIT専門調査会社・IDC Japan 株式会社が2024年5月に発表した「国内AIシステム市場予測、2024年~2028年」によれば、2023年から2028年までの国内AIシステム市場の年間平均成長率は30.0%で推移すると予測しており、需要が高まることを裏付けています。
現在は人工知能が活用されていない機器のなかにも「AI化によって利便性が高まる」と考えられる製品は数多くあります。
さまざまな機器のAI化が進行すると、組み込みエンジニアの活躍場所はより拡大します。
転職市場における組み込み業界の採用動向
組み込みエンジニアの転職市場の実情は、年齢によって異なります。
ここでは、20代・30代と40代以上とに分けて採用動向を解説します。
【20代・30代】人材不足のため、積極的な採用が多い
組み込みエンジニアに限ったことではないものの、システムエンジニアひいてはIT人材は慢性的に不足しています。
組み込みエンジニアを募集している企業では、未経験の若手に専門教育を施し、必要な人材の確保を狙う取り組みを行っているほどです。
人材不足は深刻化しており、企業の採用意欲は高い状況にあります。20代や30代でC言語やC++の基礎知識を習得しているのであれば、未経験からでも組み込みエンジニアを目指せます。
未経験から組み込みエンジニアとして就職し、いち早くスキルアップを目指す場合、書籍やスクールで自主的にも学習する方法があります。
プログラミングやOSに関する基礎知識を習得したあとはネットワークやセキュリティに関する学習を進めれば、より幅広く高度なポジションを目指すことが可能です。
【40代以上】実務経験、スキルを買われて採用される
40代以上で組み込みエンジニアとして転職する際には、豊富な実務経験をもつ人材が重宝されます。
技術面に関してはC言語やC++によるプログラミングスキルは必須です。
プラスアルファの技術としてマルチコアやマルチスレッド処理に対応できるスキルがあると、高待遇の転職も狙えます。
組み込みシステム業界への転職なら「メイテックネクスト」
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組み込みシステム業界への転職成功事例
最後に弊社を利用して、組み込みシステム業界への転職に成功した事例を2件紹介します。
1件目は、20代後半で航空宇宙業界の開発職から自動車業界へ転職したAさんです。
Aさんは、航空宇宙業界の開発職に従事していましたが、「最新技術を活用して世の中の変革をサポートしたい」と考えるようになり、メイテックネクストのサポートを得て、技術革新が著しい自動車業界の研究開発職への転職に成功しました。CASEと呼ばれる100年に一度の大変革期のなかに身を置き、研究開発に勤しむ日々を送っています。
2件目は、前職と同じ業界で、ライフスタイルに応じた働き方を実現した事例です。前職では自動車サプライヤーでソフトウェア開発を行っていた30代後半のBさんは、家庭の事情で地元に戻ったものの、自動車開発の仕事には未練が残っていました。そこでメイテックネクストを利用し、フルリモート・遠距離居住可の条件で働ける自動車開発の求人を紹介されました。
メイテックネクストの徹底した選考対策支援もあり、理想の条件にマッチした完成車メーカーの自動運転システム開発の内定を獲得できました。
まとめ
組み込みシステムは上述したような業界のさまざまな機器で使用され、私たちの安全で便利な暮らしを支えてくれています。
IoT化に対応した製品を開発する際にも、組み込みシステムは欠かせません。今後も需要が高い位置で推移することが予想される組み込みエンジニアとしてのキャリアプランを前向きに検討したいのであれば、弊社メイテックネクストにご相談ください。
この記事の寄稿者
私自身、前職のIT系企業から現職のキャリアアドバイザーへと異職種異業界への転職をしており、自分が今いる立ち位置から見えていないような場所にも可能性があるということを実感しています。
「そもそもなぜ転職を考えているのか」からどんな場所であれば今ある不満を解消してより良いキャリアを描けるかを、ご経験やご志向をしっかり理解したうえで提案いたします。
転職という人生の大きな転機においては、様々な悩みや大変さがあるかと思います。
そういった場面での伴走者として、転職先のご提案からご内定獲得まで密にサポートさせていただきますのでお気軽にご相談ください。
- 香川 恵