FPC印刷技術で世界一を狙うエレファンテック「優秀な技術者が豊富なのが日本の強み」
<対談者>
エレファンテック株式会社 代表取締役社長:清水信哉氏(画像:左)
株式会社メイテックネクスト 代表取締役社長:山田英二(画像:右)
フレキシブル基板(FPC)の開発・製造を手がけるエレファンテックの創業から10年経ちました。
「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」をミッションに掲げる同社は、自社工場を構え、国内外の企業と協業を進めるなど、着実に歩みを進めています。
創業者で代表取締役社長の清水信哉氏にメイテックネクスト代表取締役社長の山田英二がインタビューを行い、10年の成長の過程と事業環境の変化や人材採用に対する考え方、今後の展望について語っていただきました。
難しいといわれるハードウェア領域こそ勝ち筋
山田:スタートアップは社長のカラーが出るものだと思います。
そこで、最初に清水社長ご自身について伺います。
清水社長は東京大学大学院を卒業され、その後マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントをなさっていたと思います。
コンサルティングファーム経験者が起業するケースは数多ありますが、比較的難しいとされるハードウェア領域で起業された経緯や想いをお聞かせいただけますか。
清水氏:世の中に既にあるビジネスを日本市場に適応させるタイプと、まだ存在しないものを創り出し、それによって世界を良くしていくタイプがありますが、私は後者をやりたいというのが前提としてあります。
では、どのようなビジネスでそれができるかと考えたとき、ハードが絡むものこそ日本の “勝ち筋”であり、日本の強みを生かして世界の産業を変えて行くことができるのではないかと考えました。
山田:むしろ勝ち筋なわけですね。
清水氏:日本企業の時価総額ランキングでは、キーテクノロジーを持つ時価総額10兆円を超える企業が名を連ねています。
この領域こそ日本の強みが生きる、逆に、この領域でなければ世界で勝てないのではないかと考えました。
山田:2014年に創業されてから10年経ちました。振り返ってみてどの辺りが一番大変でしたか。
清水氏:「成功する」と信じている人が少なかったことです。
当時はディープテックという言葉はありませんでしたし、1億、2億円程度の資金調達でも大ニュースになっていた時代でした。私は、世界には1,000億円レベルの資金調達をしているスタートアップがあるのだから、日本で同じことができない道理はないと思っていました。
しかしながら当時の日本のスタートアップ・エコシステムの中では「日本では無理」という意見が大多数を占めている状況でした。
ただ、そのような中で、成功を信じてくれる人たちもいました。
例えばBeyond Next Venturesというベンチャーキャピタル(VC)は創業からずっと我々を支えてくれていて、だからこそやってこられた面はあると思います。
技術と市場のニーズがかみ合うタイミングの見極めが重要
山田:エプソン様と提携されるなど、貴社は“仲間”の多い会社だという印象です。活動を通じて成功を信じる人たちが増えたということなのでしょうか。
清水氏:そうですね。仲間を増やしてこられたのは、「世界最先端」で「世界にとって絶対に必要なこと」に取り組んでいることが明確だからだと思います。
問題はタイミングです。
例えば、テスラ社の車も世界初の電気自動車(EV)ではありませんよね。重要なのは技術と市場のニーズがかみ合うタイミングで、そこに合わせて取り組めるかどうかなのだと思います。
山田:タイミングという意味では、貴社で打ち出されている地球環境に配慮する姿勢が、時流に上手く乗ったようにお見受けします。
創業当初からこの時流を先読みしていたのですか。
清水氏:はい。そして、それこそが、「いつ必要とされるか分からないが、いつかは必ず顕在化するニーズ」だと考えていました。
今でこそ脱炭素が注目され、企業が材料を購買する際の判断軸に「環境負荷」が必ず入る時代になりましたが、2014年当時は誰も想像していなかったと思います。
我々もある時期までは、技術は製造時に使う「水を大幅に削減できる」ことを強くアピールしていました。
でも今は、どちらかというと脱炭素、つまり材料を減らせてCO2を削減できるという部分が、企業に選ばれる上でのキーファクターになっています。
嬉しい誤算「顧客・売上のほとんどが海外企業」
山田:今はお客様も増えて、貴社の製品が確実に市場に出てきていると感じます。当初、清水社長が描いた絵図通りに進んでいるのでしょうか。
清水氏:いえ、絵図通りではありません(苦笑)。
スタートアップの事業が軌道に乗る標準的な期間が7年くらいであることから、創業時は「10年後には、ある程度の規模で上場しているだろう」と考えていました。
でも実際はそうなっていません。
ただ、想像していたよりずっと上手くいっている部分もあります。
今、我々の顧客パイプラインや売上の多くは海外企業が占めています。
最初は国内である程度の規模まで市場を立ち上げて、その後に海外へ展開していくことになると思っていましたので、そこは嬉しい誤算でした。
山田:特にどの地域が多いといった傾向はありますか。
清水氏:北米、欧州、それからアジアだと台湾、韓国が多いです。東南アジアはまだ少ないですね。
北米と欧州は、自動車をはじめ大手メーカーが多いことが理由です。
台湾と韓国は、ものを作っている人が多く、技術に関心がある、試しに使ってみたいという引き合いが多いです。
山田:そうすると、海外に拠点を置くことも視野に入ってくるのでしょうか。
清水氏:そこは難しいところで、そもそも拠点が必要なのかという論点があります。
少なくとも現状では、現地にスタッフが必要な状況にはなっていません。
ただこの先、例えばある地域で一気に拡大していくとなると、現地に拠点を置く判断もありえます。
私が目指しているのは、プロダクトの力、技術の力で世界を進歩させることです。
会社は日本ローカルだけれども、狙うマーケットはグローバル。
プロダクトがあまりにも良く、比類ないがゆえに“勝手に”広がっていく。
そういうやり方ができれば一番いいと思っています。
将来は製造装置を手がけるが、今は実績をつくるフェーズ
山田:まさにそこが今、花開きつつあるところですね。
以前お話を伺ったときは、現状のプロダクトはフレキシブル基板(FPC)だけれども、ゆくゆくは製造装置を手がけ、世の中のFPCの製造を全部貴社の技術に置き換えたいと話されていました。それは今も変わっていませんか。
清水氏:変わっていません。今は片面FPCという一番シンプルなプロダクトで実績を作るフェーズだと考えています。
この業界は非常に保守的なので、新しい技術を開発したからといってそう簡単に採用されるわけではありません。
そのため、まずは我々のプロダクトが、スマートフォンやノートPCのように多くの人たちが使う製品に「既に導入されている」という分かりやすい実績を作ることにフォーカスしています。
ただ、片面FPCは巨大なプリント基板(PCB)市場の2%程度でしかありません。そのため、片面FPC以外のプロダクトも展開すべく、今は試作を進めている段階です。
山田:工場を作られましたよね。スタートアップとしては珍しいのではないですか。
清水氏:はい。ただ、日本のスタートアップで自社工場を持っているケースは希少ですが、グローバルではたくさんあります。
むしろ「日本は製造業の国なのに、どうしてそんなに少ないのか」と不思議なくらいです。
山田:なるほど。我々は「スタートアップ=ファブレス」という先入観にとらわれているのですね。
清水氏:この10年ほどの間に、スタートアップの役割が変わったとグローバルでは言われています。
以前は、大企業ができないようなニッチな領域、まだニーズがあるか分からないような領域に取り組むのがスタートアップの役割でした。
でも今は、リチウムイオン電池、太陽電池、EV、航空・防衛、宇宙といったマジョリティになりうる市場を狙うスタートアップが増えています。
大企業が投資していたりもして、事業立ち上げの1つの方法としてスタートアップが認知されてきた形です。
リバースエンジニアリングされない「材料」の技術に強み
山田:技術面の話をお聞きしたいと思います。技術系の候補者の方に貴社の話をすると、耐久性は問題ないのかと聞かれることがあります。
清水氏:耐久性は材料に拠るところが非常に大きく、多くは秘密にしている部分です。
そのため具体的に説明できませんが、耐久性について聞かれたときは2つのことをお話ししています。
1つは、既に日系の大企業、例えばEIZO様やザクティ様 などの大企業において量産で採用されている事実です。
そうした企業には、厳しい耐久試験をクリアしなければ採用していただけません。
もう1つは、我々の株主・パートナー企業を見ていただきたいということ。
エプソン様、三井化学様、信越化学工業様、三菱電機様などの技術をよく知る彼らが判断した上で投資していただいている事実です。
山田:インクはインクメーカーと連携して開発されていて、貴社独自の配合をお持ちですよね。
材料に詳しいある候補者の方が「おそらくインクに秘密がありそうだが、特許を調べても出てこない」と言っていました。
清水氏:いいご質問ですね。実は私たちは、特許を他社と比べると多く出願しています。現状では90件近く。
ただ意図的に出してない領域があり、それがまさにインクの配合です。
特許の内容は公開されてしまうため、その周辺については意図的に申請していません。
山田:なるほど。特に材料だとリバースエンジニアリングがしにくいですよね。
清水氏:おっしゃる通りです。分解されて中身や作り方が分かってしまうものなら特許を取得したほうがいい。
でも、材料は出来上がったものを見ても、どうやって作ったかが基本的に分かりません。
このような特許戦略は材料メーカーなどではよくある話で、大手メーカーから転職してきた方が技術を保護するためのノウハウを当社にもたらしてくれています。
日本の半導体材料や機能材料が強い所以でもあります。
日本で起業した意味、製造業の優秀な人材に期待
山田:転職の話が出ましたが、その意味で人材採用は上手くいっていそうですね。
清水氏:常に苦労してはいますが、これまで入社していただいた方は、日本だからこそ採用できた非常に優秀な方たちだと感じています。
山田:日本で起業された意味はそこにもあるのでしょうね。
清水氏:はい、大きなものの1つです。日本の製造業における技術系人材のクオリティは世界一だと思っています。
ノンバーバルで戦えるこの領域で長い年月を生き残ってきた日本に、優秀な技術者が数多くいることはとてつもない強みだと考えています。
山田:スタートアップには若い方が転職するイメージがありますが、貴社はそのイメージとは違って、候補者が持つ技術や知識、経験を大事にして採用されている印象があります。
清水氏:そこは確かに特徴かもしれません。社員の平均年齢は一般的なスタートアップよりもかなり高いと思います。
一般的な企業の平均年齢に近いはずです。
山田:半面、技術や経験が要件を満たしていても、お見送りとなるケースもあります。
私たちはご紹介する中で感覚的に分かってきましたが、あらためて、採用に当たってどのような点を重視されているかをお聞かせいただけますか。
清水氏:会社としてのカルチャーを言語化した「Elephantech Way」にフィットするかどうかを重視し、採否の判断に加味しています。
「Elephantech Way」は採用時だけでなく入社後の評価にも用いられますし、日々の行動規範として強くエンフォースしています。
カルチャーが合致するかどうかを見極めるために、我々は採用プロセスの中で「1日インターン」を実施しています。
山田:候補者の方も、転職先として自分に合うかどうかを確かめる機会として前向きに捉えている方が多いです。
清水氏:1日インターンをするようになってから、離職率が格段に下がりました。やはりカルチャーマッチはとても大事だと私も実感しています。
スタートアップなので、計画通りに採用して成長スピードを落とさないことも重要ですが、スピードをある程度犠牲にしても、マッチしない人に入っていただくよりはお互いのためによい。
そういう考え方でこだわって採用活動をしています。
まだ1合目だが、正しい道を着実に登っていく
山田:清水社長が描く最終的なゴールに対して、登山に例えると今は何合目まで来ているとお考えですか。
清水:世界のPCB製造のほとんどを当社の技術で置き換えるという最終的なゴールに対しては、まだ1合目の辺りだと思います。
まずはラボレベルで技術を確立する、量産を成功させる、量産のスケールアップに向けて顧客を確保する……この辺りまではできていますが、世の中のマジョリティを本格的に置き換えるのはこれからです。
ただ、ITの世界と違って設備の入れ替えとなるので、2〜3年でというわけにはいきません。
世界のほとんどのものが置き換わるには、最低でも10年はかかるでしょう。その意味で1合目辺りだと考えています。
山田:でも、道は見えている。だからこそ皆さんがついて行かれるのでしょうね。
清水氏:はい。実現可能性について疑念はありません。このことは、本当に重要なことだと思っています。
我々は、一時的・局所的な需要を捉えているわけではありません。20年後には間違いなく世界に存在するニーズを捉えて着実に進んでいくだけです。
今回は弊社代表山田と共にエレファンテック社に訪問する機会を頂き、同社代表の清水様と対談をさせて頂きました。
日本だからできる優秀な人材の採用方法や、現状の課題、今後の展望などをお伺いすることができました。
日本の製造業に従事する方々には世界的に見ても優秀な人材が多く、だからこそ“日本で企業をする意味がある”という言葉には改めて日本の強みを気づかされました。
“当たり前”として日々行っている業務や仕事への向き合い方には、日本ならではの「職人」の精神があり、それこそが日本の製造業の技術力が素晴らしい理由の一つと感じました。
今回の対談を通し、弊社としてもエレファンテック社のDNAや今後の方向性について更に理解をすることができました。
少しでも同社に興味をもって頂けた方はぜひ弊社にご相談下さい。
この記事の寄稿者
今回ご紹介させて頂いたエレファンテック社のように成長が著しく、注目度が高いスタートアップ、ベンチャー企業を得意としております。
人生100年時代と言われる中、激変する時代の変化に即した柔軟なキャリア提案に定評がございます。
貴方のスキルが実は企業にとってまさに求めていたものだった、企業の発展には欠かせないスキルだったという事例も多くございます!
少しでも私自身や弊社企業に興味を持って頂けましたらお気軽にご相談下さい。
- 新美 優子